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鍛冶 教授らの研究グループが、特別に計算された四面体で綺麗に回り続ける新しいカライドサイクルを発見しました。

  • 2023年4月25日(火)

    ポイント

    • 現代数学と折紙の融合で新しいリンク機構のデザインを発見。
    • 世界で初めて「劣決定な 1 自由度環状リンク機構」の開発に成功し、数学的なアイディアでは珍しい特許を取得 (特許第 7261490 号)。
    • ミキサーやスクリューから、機能性分子や宇宙構造物まで幅広い応用に期待。

    概要

     カライドサイクルという折り紙は、6 つの合同な四面体が数珠繋ぎに輪をなして連なったもので、イルカのバブルリングのようにクルクルと無限に回すことができます。四面体の個数を増やすこともできますが、個数が増えるにつれて、たわみやすく動きが不安定になり、うまく回すことが難しくなります。ところが不思議なことに、7 つ以上の場合でも特別に計算された四面体を使うと、たわむことなく綺麗に回ることが発見されました。この新しいカライドサイクルは、裏表のない帯であるメビウスの帯と同じ繋がりのかたちを持つため、「メビウス・カライドサイクル」と名付けました。

     ただの子供のおもちゃの話にも聞こえるカライドサイクルですが、その応用のポテンシャルも学術的な意義も侮れません。カライドサイクルは、パンタグラフやワイパー、折り畳み機構などと同じく、リンク機構と呼ばれるものの一種ですが、リンク機構の動きを解析したり設計したりすることは、数学と工学の分野で長らく研究されている難しい問題の一つです。特に、劣決定と呼ばれる性質を持つリンク機構の解析は難しく、これまで劣決定でぴったり1次元自由度の動きを持つ本質的な機構は知られていませんでした。

     九州大学マス・フォア・インダストリ研究所の鍛冶 静雄 教授は、共同研究者らとカライドサイクルの構造を数学的に解析する研究を行い、環状のリンク機構を離散的な曲線として定式化することにより、メビウス・カライドサイクルの構成に成功しました。メビウス・カライドサイクルは 1 次元自由度を持つ初の劣決定リンク機構であることに加えて、回転時に弾性エネルギーが一定であること、角運動量を与えることなく向きを変えられるなどの特別な性質を持ちます。この発見を 2018 年 2 月に特許出願し、2023 年 4 月 12 日に特許を取得しました。

     メビウス・カライドサイクルの持つ特別な性質は、折り紙だけでなく、一定の角度で捩れながらヒンジ (蝶番) によって連なった機構が等しく持つ幾何的性質なので、材質にもヒンジ間をつなぐ剛体の形状にも依存しません。目に見える大きさであれば、スクリューや攪拌機、ミクロの世界では高分子、大きなものでは宇宙アンテナなど、さまざまなスケールでの応用の可能性を持っています。

     また、メビウス・カライドサイクルは応用上の有用性だけでなく、数学的対象としても重要であることが分かってきました。その動きは、物理に起源を持つ可積分系と呼ばれる特別な微分方程式で記述されます。一方で頂点の座標は連立二次方程式で表される実代数多様体という図形になっています。帯としてのねじれの数や自分自身との絡まり方は結び目理論を用いて記述されます。このようにメビウス・カライドサイクルは、現代数学のいくつもの分野を繋ぐ交差点の役割を果たすと同時に、それら抽象的な数学概念が、手で触れることのできる形で具現化した稀有な存在でもあります。日本の遊びである折り紙を通して、美しい数学を万華鏡 (カライドスコープ) のように見せてくるカライドサイクル、その研究から新たな数学が生まれることが期待されます。

    参考資料では、折り紙の設計図や 3D プリントできるデータが公開されています。ぜひ実物を手に取って、その背後にある数学を感じながら回してみてください。

    ※ 本件についての詳細およびお問い合わせ先は以下をご覧ください。

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