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岡崎 准教授と奈良岡 教授らの研究グループによる小惑星探査機「はやぶさ2」初期分析の研究成果「日焼けで隠された水に富む小惑星リュウグウの素顔」が科学誌「Nature Astronomy」に掲載されました。

  • 2022年12月21日(水)

ポイント

  • 小惑星リュウグウは、液体の水との反応を大規模に経験したものからできていることが、他の研究グループの研究ですでに明らかになっています。しかし、「はやぶさ 2」の現地での観測からは、小惑星リュウグウがかつてより大きな天体の一部だったときに、内部の温度が高かった、あるいは、過去に太陽の近くに到達する軌道にいたため表面から深さ約 1 メートルまでが強く加熱された結果、天体全体か天体表層の水がほとんど宇宙空間に失われたと解釈できるデータが得られていました。本研究は、両者の矛盾を解消するものです。
  • 大気のない天体表面はいくつかの原因で徐々に変化しています (宇宙風化といいます)。本研究は、小惑星リュウグウの表面物質も宇宙風化を受けていることを示しました。しかし、小惑星リュウグウには、月にもイトカワにも含まれていない含水層状珪酸塩鉱物 (粘土の仲間) が大量に含まれているため、水のない月や小惑星イトカワのものとは異なる独特の宇宙風化でした。いわば、大気のない天体はそれぞれの個性の違いに応じて違った日焼けのしかたをするということです。
  • リュウグウでの宇宙風化の特徴は、マイクロメテオロイドの衝突による加熱によって石 (や砂) の表面数ミクロンが溶融しているものがかなりあるのが特徴です。この溶融で粘土は脱水し、まるで天体全体が強い加熱を受けたかのように太陽光を反射していることが分かりました。
  • リュウグウが属する C 型小惑星は小惑星の集中部であるメインベルトに最も多く存在します。本研究で C 型小惑星の宇宙風化の実態が初めて明らかになったことにより、水を含む小惑星の反射スペクトル (小惑星が太陽光をどのように反射しているか) の解釈が大きく進むと期待されます。

概要

 先ほどポイントでも述べたように、太陽系の大気のない天体表面は、マイクロメテオロイドが秒速 10 キロメートルを超えるような速度で衝突、太陽からのプラズマの流れである太陽風の照射、さらには、太陽及び銀河宇宙線の照射に常に曝されている非常に厳しい環境にあります。これらの影響で、大気 (と磁場) のない天体の表面の化学組成、構造、そして、光学的特性が徐々に変わっていることが知られています。この変化を宇宙風化といいます。小惑星リュウグウは、内部太陽系の小天体で最も多い C 型小惑星に属しています。「はやぶさ 2」によるリュウグウからのサンプルリターンは、この C 型小惑星の特徴を実験室で研究する初めての機会を与えてくれました。宇宙風化による試料の表面の変化は、今まで地球に持ち帰られた月やS型小惑星イトカワの試料で研究されてきました。これらの試料は、基本的にヒドロキシ基 (OH) や水分子 (H2O) を含まない無水鉱物からできています。一方、 C 型小惑星であるリュウグウは、そのもととなる天体ができたときに、鉱物、有機物、氷が集積し、その後、氷が融解して鉱物が水と大規模に反応しました。この天体が、他の天体の衝突で破壊されてできた破片が集まって現在のリュウグウができました。このため、リュウグウの物質は、層状珪酸塩鉱物という粘土鉱物の仲間を大量に含んでいます。宇宙風化が検出できたリュウグウ粒子 (本研究では「砂」サイズの試料を分析しているため、サンプルを粒子と表すことにします) には、層状珪酸塩鉱物の結晶構造が壊れてしまっているものと、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けているものがありました。どちらの場合でも、層状珪酸塩鉱物に含まれていた 3 価の鉄イオンが 2 価に還元されていました。また、層状珪酸塩鉱物に含まれるヒドロキシ基が失われていました。これは、リュウグウ粒子表面から水が取り去られたことを意味します。特に、層状珪酸塩鉱物が部分的に融けた場合、脱水反応は顕著でした。これらの結果は、C 型小惑星における宇宙風化では、小惑星リュウグウの表面に存在している層状珪酸塩鉱物の脱水が大きく寄与していることを示しています。「はやぶさ 2」が測定した、2.7 ミクロンの波長の光の吸収が弱い小惑星の反射スペクトルは、ヒドロキシ基が少ないことを示しています。C 型小惑星一般においても、2.7 ミクロンの吸収帯が弱い天体は、天体全体で揮発性物質が失われたというよりも、宇宙風化によって引き起こされた脱水の程度を示しているのかも知れません。(https://doi.org/10.1038/s41550-022-01841-6)

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