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池ノ内 教授と⼩野 由美⼦さんらの研究グループが、低浸透圧の液体に曝されても上⽪細胞が破裂しない仕組みを解明しました。

  • 2022年3月31日(木)

ポイント

  • 消化管や⽪膚などの表⾯に位置する上⽪細胞シートは外界からの異物の侵⼊を防ぐバリアとして機能しますが、常に様々な浸透圧の溶液に曝されています。
  • 本研究で、アピカル膜に豊富に存在するスフィンゴミエリンと呼ばれる脂質の輸送過程を可視化し、mTORC2 シグナル伝達経路が活性化するとスフィンゴミエリンの輸送が亢進することを明らかにしました。
  • 低浸透圧溶液に曝された上⽪細胞では mTORC2 シグナル伝達経路が活性化することにより、破裂による細胞死を免れていることが明らかになりました。

概要

 私たちの体の表⾯や器官の表⾯は上⽪細胞と呼ばれる細胞のシートによって覆われています。上⽪細胞シートは、外界からの異物の侵⼊を防ぐバリアとして機能します。例えば消化管の上⽪細胞は、浸透圧の⾼いお汁粉や蜂蜜のような液体から、真⽔や唾液のような低浸透圧の液体など、浸透圧の⼤きく異なる溶液に絶えず曝されています。低浸透圧の溶液に曝された際には、細胞内に⽔が流⼊するため、細胞は膨らみます。この際に、細胞膜に脂質が適切に供給されなければ、細胞膜が破裂して、細胞は死に⾄ります。今回、九州⼤学 ⼤学院理学研究院の池ノ内 順⼀ 教授、システム⽣命科学府博⼠課程の⼩野 由美⼦ ⼤学院⽣らの研究グループは、上⽪細胞が管腔側から低浸透圧の溶液に曝されると、アピカル膜が選択的に増⼤することを⾒出しました。さらに、低浸透圧による刺激によって mTORC2(mammalian target of rapamycin complex 2) シグナル伝達経路が活性化され、その結果、アピカル膜を構成する脂質スフィンゴミエリンを含む⼩胞とアピカル膜との融合が促進されて、アピカル膜が拡⼤することを明らかにしました。mTORC2 シグナル伝達経路は、細胞の増殖や細胞の運動に関わるシグナル伝達経路で、最近では、がん細胞の悪性化との関連が⽰唆されています。今回の研究で mTORC2 シグナル伝達経路は、細胞膜脂質のスフィンゴミエリンの輸送を制御するという新たな役割を担っていることが明らかになりました。この発⾒は、上⽪細胞に由来する様々な疾患に対する新たな治療法を開発する上で基礎となる知⾒です。

 本研究成果は、2022 年 3 ⽉ 23 ⽇ (⽔) 午後 6 時 (⽇本時間) に⽶国科学雑誌『Journal of Cell Biology』に掲載されました。

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