私たちの体の表面や器官の表面は上皮細胞と呼ばれる細胞のシートによって覆われています。上皮細胞シートは、外界からの異物の侵入を防ぐバリアとして機能します。上皮細胞同士は、隣り合う細胞同士が互いのクローディンと呼ばれる細胞接着分子を介して、ちょうど握手をするようにして強固に結合しています。一方で細胞のシートの中には、3 つの細胞が接する点が多数存在します。3 人で同時に握手ができないのと同様に、3 つの細胞は同時には接着できないため、必ず小さな隙間が生じます。このような 3 つの細胞間の隙間が大きくなると、病原体などの異物が体内に侵入したり、体内の水分が体の外に出て行ってしまったりするため、3 つの細胞間に生じる隙間はできる限り小さくする保つ必要があります。このような 3 つの細胞の隙間を形成するために必要なタンパク質としてトリセルリンという分子が知られていましたが、その詳細な機能はわかっていませんでした。
今回、九州大学 大学院理学研究院の池ノ内 順一 教授、同大学 大学院システム生命科学府 一貫性博士課程の長 佑磨 大学院生らの研究グループは、トリセルリンが、細胞のアクチン細胞骨格と結合し、その収縮力を利用して、隙間を小さく保つ役割を担っていることを明らかにしました。本研究において、研究グループは、3 つの細胞が接着する領域において 2 つの細胞間の接着面に由来するアクチン線維同士が交叉するように走行していることを見出しました。この交叉する領域に集積したミオシンがアクチン線維同士を滑りこませることで、靴紐を締めるように、3 つの細胞が接着する領域にアクチン線維を引っ張ります。トリセルリンがこのアクトミオシン骨格と相互作用することによって、トリセルリンと共に接着構造を形成するクローディンが3つの細胞接着領域に引き寄せされるため、3 つの細胞間に生じる隙間が小さく保たれていることが明らかになりました。
上皮細胞シートのバリア機能の破綻は、アトピー性皮膚炎や炎症性腸疾患などの慢性炎症を引き起こすことが明らかになっており、今回の発見は慢性炎症疾患に対する新たな予防法や治療法を開発する上で基礎となる知見です。
本研究成果は、2022 年 2 月 11 日(金)午後 6 時(日本時間)に米国科学雑誌『Journal of Cell Biology』に掲載されました。
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