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金谷 啓之さんらの研究グループが脳を持たない動物ヒドラの睡眠制御機構を解明しました。

  • 2020年10月13日(火)

 九州大学 基幹教育院の伊藤 太一 助教と金谷 啓之 (研究当時 本学理学部 4 年生・現在 東京大学大学院 医学系研究科 大学院生)らの研究グループは、Ulsan National Institute of Science and Technology の Chunghun Lim 准教授らの研究グループと共同で、原始的な神経系 (散在神経系) を有するヒドラに睡眠が存在すること、さらにその制御因子が他の動物と共通していることを発見しました。

 睡眠はヒトをはじめとする哺乳類に限らず、魚類や昆虫などの幅広い動物種で観察されます。いずれの動物種においても、睡眠は脳機能と深く関連しており、「睡眠と脳は切り離せない関係性にある」との考えが一般的でした。研究グループは、進化的に脳を獲得していない動物であるヒドラに着目し、睡眠現象の有無を検証しました。独自に構築した解析システムによってヒドラの行動を解析したところ、ヒドラには明確な睡眠位相が存在していることが明らかになりました。そこで研究グループは、他の動物の睡眠メカニズムと、ヒドラの睡眠メカニズムを比較することで、眠りの仕組みの起源に迫ることを目指しました。

 ヒドラに様々な生理活性物質を投与して睡眠長の変化を調べたところ、睡眠薬として知られるメラトニンや、GABA では睡眠が促進されること、また、一般に覚醒物質と知られるドーパミンでも、睡眠が促進されることが分かりました。次に遺伝子レベルで検証するため、断眠させたヒドラの遺伝子発現を網羅的に解析しました。発現が変動した遺伝子の中には、これまでに幅広い動物種 (マウス・ショウジョウバエ・線虫) で睡眠制御への関連が指摘されている cGMP 依存性プロテインキナーゼ (PRKG1) が含まれており、薬理学的解析から PRKG1 がヒドラにおいても睡眠制御に関与していることが明らかになりました。この結果を踏まえ、動物種間で共通した睡眠制御因子や新規の睡眠制御因子を探索するため、発現変動した遺伝子のオルソログをショウジョウバエにおいて機能阻害したところ、複数の遺伝子がショウジョウバエの睡眠長制御に関与していることが分かりました。このことは、ヒドラの睡眠に関与する遺伝子群が、ショウジョウバエにおいても睡眠調節作用を持つことを示しています。さらに、一部の睡眠制御機構は、進化的に脳を獲得する段階で再編成された可能性が示されました。

 これらの結果に基づいて研究グループは、「動物が脳の進化よりも先に睡眠をメカニズムレベルで獲得していた可能性」を世界で初めて提唱しました。本研究成果は、10 月 7 日 (水) (現地東部時間 2:00pm) に米国科学誌 Science Advances に掲載されました。(https://doi.org/10.1126/sciadv.abb9415)

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