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松森教授、木下助教らの研究グループが麻酔作用発現に関する新たなメカニズムを提案しました。

  • 2019年6月27日(木)

 九州大学大学院理学研究院の木下祥尚助教と松森信明教授らの研究グループは、細胞膜に存在する脂質ラフトと呼ばれる固い膜領域が局所麻酔薬によって破壊されることを見出し、局所麻酔薬の作用発現に脂質ラフトの破壊が関与しているとの新たな仮説を提唱しました。

局所麻酔薬や全身麻酔薬の作用機構は現在でも十分解明されておらず、多方面から研究が行われています。局所麻酔薬はイオンチャネル (生体膜を貫通するタンパク質の中で、ナトリウムイオンやカリウムイオンなどの特定のイオンを透過させる役割を持つタンパク質) に作用することで神経伝達をブロックし、麻酔作用を発現すると考えられてきました。一方で、局所麻酔に関与するイオンチャネルは脂質ラフトに存在し機能することが報告されています。そこで、我々は、脂質ラフトを模した人工脂質膜に対し代表的な局所麻酔薬であるジブカインやテトラカイン、リドカインを外部から添加しました。その結果、ジブカインやテトラカインは脂質ラフトに相当する領域を効率的に破壊するのに対し、リドカインの影響は小さいことがわかりました。興味深いことに、局所麻酔薬のラフト破壊は麻酔作用の強度と相関していました。また X 線の実験により、ジブカインやテトラカインは膜の奥深くに侵入することで固い脂質ラフトを効率的に乱すのに対し、リドカインは膜表面付近に存在するため脂質ラフトに及ぼす影響が小さいことがわかりました。以上の結果、イオンチャネルが機能する場である脂質ラフトが局所麻酔薬によって破壊されるため、イオンチャネルの活性が抑制され、麻酔作用が発現するとの新たな仮説を提案しました。この成果は、新たな局所麻酔薬の開発の指針になると期待されます。

本研究は科研費 (JP15H03121、JP16H00773、JP17K15107) などの支援を受けて実施しました。本成果は令和元年 6 月 15 日 (土) (日本時間) に学術誌 「Biochimica et Biophysica Acta − General Subjects」のオンライン版に掲載されました。 (https://doi.org/10.1016/j.bbagen.2019.06.008)

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