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水野准教授らの研究グループが歩行型生体分子モーターのエネルギー入出力を解明しました。

  • 2018年11月28日(水)

 山口大学大学院医学系研究科の有賀隆行准教授 (特命) は、青山学院大学理工学部物理・数理学科の富重道雄教授、九州大学理学研究院の水野大介准教授と共同で、歩行型生体分子モーターであるキネシンのエネルギー入出力を、実験・理論の両面から初めて明らかにしました。

 細胞内では多数の生体分子モーターが細胞内のあちらからこちらへと荷物を運んでいます。その一つ、「キネシン」は細胞内の微小管と呼ばれるレールの上を、文字通り歩きながら荷物を運んでいます。そのために使われる燃料は、生体内のエネルギー通貨と呼ばれる「ATP」です。キネシンは ATP が持つ化学エネルギーを、荷物を運ぶ運動へと変換するため、一つのエネルギー変換装置であるとも言えます。キネシンを始めとする歩行型生体分子モーターの詳細な運動のしくみは、近年発達してきた 1 分子計測技術が明らかにしつつあります。ところが、それらの分子に対するエネルギーの入出力を定量的に評価した研究はありませんでした。

エネルギー変換の理解は大切です。例えば、自動車のエンジンでも、その燃費の良さを定量することによって、限りあるエネルギーを無駄なく使うための改良が行われています。同様の計測をキネシンのような小さい (ナノメートルサイズの) モーターで行おうとすると、「熱ゆらぎ」の効果が現れてしまい、これまではうまく定量ができませんでした。今回私たちは、光ピンセット法 (2018 年度ノーベル物理学賞受賞) の技術をベースに、高速フィードバック制御を導入することで、キネシンのエネルギー入出力を計測する装置を開発し、1 分子の歩行型分子モーターであるキネシンの「散逸」を実験的に定量することに初めて成功しました。さらに我々はキネシンの数理モデルを構築し、今回の実験結果を計算機シミュレーションと理論計算で評価した結果、キネシンは入力となる化学エネルギーの約 80 % ものエネルギーを、荷物を運ぶ運動ではなく、分子の内部から散逸していることを明らかにしました。

 この結果は一見すると効率の悪いモーターのようにもみえます。しかし、実際にキネシンが働く細胞内は、今回測定した顕微鏡の上とは異なるため、まだまだ人類の知らないエネルギー変換の仕組みがあるのかもしれません。それを明らかにすることが今後の課題です。そして、生体の分子モーターから学び得るそれらの知識が、人工の分子モーター設計にも役に立つと期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌「Physical Review Letters」のオンライン版 (11 月 21 日付け) に公開されました。(https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.121.218101)

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