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奥本助教らの研究グループがミトコンドリアとペルオキシソーム分裂増殖の根幹を成す新規因子を世界で初めて発見しました。

  • 2018年11月8日(木)

 九州大学生体防御医学研究所の藤木幸夫特任教授と、井元祐太日本学術振興会特別研究員 (現 JohnsHopkins University)、本学理学研究院 奥本寛治助教、日本女子大学 黒岩常祥客員教授 (東京大学名誉教授) らは、ミトコンドリアとペルオキシソームの増殖を制御する新たなタンパク質の同定に世界で初めて成功しました。この成果はミトコンドリアとペルオキシソームの分裂増殖メカニズムを解き明かし、23 億年をかけて作り上げられた我々真核細胞の基本原理を解明することに繋がる発見になります。

地球上は現在から約 23 億年前に起きた大酸化事変以来、高濃度の酸素で覆われています。この酸素を用いて、ミトコンドリアは我々の生命活動に必須なエネルギー (ATP) を作り出しています。一方で、エネルギー生産の際には活性酸素と呼ばれる猛毒が生じますが、ペルオキシソームがこれを無毒化しています。すなわち、ミトコンドリアとペルオキシソームは、我々ヒトを含む全ての真核生物が地球上で生存するために必須の細胞内小器官 (オルガネラ) です。これらのオルガネラは分裂増殖を続け、23 億年前から代々受け継がれてきました。現在、ヒトでは細胞当り数百個ものミトコンドリアとペルオキシソームが含まれており、これらの増殖異常はパーキンソン病や伴性型副腎白質ジストロフィー (X-ALD) 等、重篤な神経疾患の原因であることが明らかになっています。そのため分裂の分子機構解明は基礎生物学のみならず、医学などのあらゆる生命科学分野で注目され、重要な課題となっています。

研究チームはこれまで、世界に先駆けてミトコンドリアやペルオキシソームの分裂に重要な分子装置の存在を明らかにしてきました。この装置はリング状構造を形成し、リングの収縮によって膜を分断します。装置の構成物質や収縮のメカニズムは詳しくは明らかにされていませんでしたが、本研究では、この装置を細胞から取り出し、質量分析や細胞構造生物学的解析を進め、装置を構成する新規分裂タンパク質 DYNAMO1 を同定することに成功しました。さらに、DYNAMO1 は装置の収縮に必要なエネルギーを生み出す重要なタンパク質であることを明らかにしました。自動車や飛行機のエンジンが石油を分解して物理的エネルギーを生み出すのと同様に、オルガネラの分裂においても、DYNAMO1 が作り出したエネルギーを使って分裂装置が動作しているものと考えられます。

DYNAMO1 と同様のタンパク質は、ヒトでは脳や生殖器官等の重要な組織でも高度に発現されており、膜分断に関わる根本的なメカニズムの解明のみならず、神経伝達や個体の増殖・生殖等の基本的な生理現象の解明にも発展することが今後期待されます。本研究成果は、2018 年 11 月 6 日午前 5 時 (米国東部時間; 日本時間 6 日午後 7 時) に「Nature Communications」電子版に公開されました。(https://doi.org/10.1038/s41467-018-07009-z)

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