原 隆 名誉教授
理学部数学科
2004年4月に九州大学に着任しました。福岡に住むのは初めてでしたが、暖かい土地柄にも助けられ、すぐに馴染むことができました。
着任後まもなく数学教室は伊都へ移転することになり、少し戸惑いました。私のオフィスのあった六本松は非常に便利なところだったのに、その頃の伊都キャンパスはかなり不便に見えたからです。しかし実際に移転してみると、伊都キャンパスは非常に自然豊かで、田舎育ちの私にはすぐに第二の故郷のように感じられるようになりました。
九州大学そのものもゆったりしたところで、私には非常に居心地良く感じられました。教育の面では完全ではないにせよ、いろいろ工夫を凝らして授業を行うことができたと思います。研究面でも、いくつかの大きなテーマについて深く考えることができました。ただ、それらが完全に結実する前に定年を迎えてしまったことには内心忸怩たる思いです。研究についてはこれからも、もう少し足掻いてみようと思っております。
なお、4年弱の間、数理学研究院長を務めさせていただきました。これに関しては私が至らぬ点も多くありましたが、期間中に数学教室と理学部の皆様から暖かいご支援をいただいたことに改めて感謝申し上げます。
21年間、本当にお世話になりました。ありがとうございました。
福本 康秀 名誉教授
理学部数学科
阪神大震災や地下鉄サリン事件で騒然としていた1995年10月からほぼ30年間九州大学にお世話になりました。着任時から世紀をまたいで懐の深い数学・数理科学の研究・教育組織であり続ける中で仕事ができたことは幸運です。物理の森肇・川崎恭治先生と接することができたことも財産です。
2006年に若山正人数理学研究院長のもとで副院長に指名されてから運営に携わるようになりました。2008年3月、東京・天王洲アイルのホテルで「産業技術数理コンソーシアム第0回フォーラムマス・フォア・インダストリ」を、2010年10月、東京大学で「スタディグループワークショップ第1回」を開催し、IMIの年中行事として定着しています。
東日本大震災直後2011年4月のマス・フォア・インダストリ研究所設立や2013年の共同利用・共同研究拠点認定には当事者として立ち会いました。またグローバルCOEプログラム等などの事業を通じて国内外の多くの第一線の研究者から新鮮な情報がもたらされ、若手研究者が育っていくのを見守るのも大きな喜びでした。研究室に訪問研究者や大学院生が切れ目なくきてくれたおかげで新しい研究に挑戦し続けることができました。
支えてくださった教職員の皆様、伴走してくれた学生諸君に心より感謝いたします。そして、マス・フォア・インダストリ研究所・数理学研究院、理学部の今後の益々のご発展を願って止みません。
寅丸 敦志 名誉教授
大学院理学研究院地球惑星科学部門
2024年3月を持ちまして定年退職いたしました。21年間の在職中、教職員学生の皆様には大変お世話になりました。特に学生さんとは、講義や研究の指導過程を通して、たくさんの発見や学びの機会を共有することができました。私の専門分野である火山噴火の仕組みや岩石パターンの成因の解明は、その背後にマグマの発泡や結晶化という複雑な過程があり、研究手法は、野外調査、室内実験、理論・シミュレーションと言った複数の手法を駆使する必要があります。冷却結晶化、反応拡散系、柱状節理など様々な室内実験では、思いもよらぬ新しい現象が見つかり、岩石パターンに潜むスケーリング則の発見という興奮を味わいました。
野外調査では、国内だけでなくインドネシアやアメリカの火山を調査して、自然現象の複雑さと美しさ、人間文化の多様性に関して、留学生を含む若い人と共有できたことは、私自身の視野を広げる貴重な体験でした。こうした経験ができたことは、大学で教育に携わる者として大変幸せなことであったと、関わりがあったすべての方々に感謝しています。
最近特に、役に立つ研究やステークホルダーを意識した教育をすべきという風潮があり、それはそれで重要なのですが、あまりそちらに重点を置きすぎると、知的好奇心を満たす教育・研究が妨げられるのではないかと危惧しています。私自身、そうしたことにほとんど影響されず大学で過ごせたことは、思いのほか幸運であったと、今では思わざるをえません。こうした時代であるからこそ、大学においていくらかでも知的好奇心を満たす教育・研究という視点が失われないことを願います。