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高橋 教授、達川 絢介さんらの研究グループが、DNA が切れた損傷に対して⼆つのしくみが冗⻑的に応答することを解明しました。

  • 2024年2月21日(水)

    ポイント

    • DNA の⼆重らせんが同時に切断されると、遺伝情報の読み取りや維持、継承ができなくなる。
    • DNA ⼆重鎖切断損傷に対して、⼆種類の DNA 損傷センサーが冗⻑的にはたらいて、損傷の検知と DNA 修復に必要な反応を進⾏させることを明らかにした。
    • DNA ⼆重鎖切断は、ゲノム編集やがんの治療にも利⽤されるため、医療を含む様々な分野への応⽤が期待される。

    概要

     遺伝情報物質、すなわち細胞の設計図である DNA は、情報を記録する「塩基」が、「糖」と「リン酸」という⼆つの化合物でできた鎖によって連続的に繋がれた物質です。DNA の連続性は、遺伝情報を正確に記録し、次の世代に伝えるために必須です。さらに DNA は、⼆本の鎖が塩基の対を軸として巻き付いた「⼆重らせん」構造を取っており、これによって遺伝情報の複製や修復が可能になっています。ところが、放射線や特定の化合物などは、DNA ⼆重らせんを構成する⼆つの鎖を同時に切断する、「DNA ⼆重鎖切断損傷」と呼ばれる損傷を⽣じさせます。この損傷は DNA の連続性を失わせ、遺伝情報の読み取りや複製、維持を妨げる⼤変危険な損傷で、細胞は DNA ⼆重鎖切断損傷を検知し、修復するしくみを多数備えています。DNA ⼆重鎖切断損傷の検知には、特定の DNA 構造に応答するセンサータンパク質が複数はたらくことが分かっています。⼀⽅で、DNA ⼆重鎖切断損傷を直す過程では、DNA を削ったりつなぎ直したりする必要があるため、DNA の構造⾃体も変化します。複数のセンサーが、修復の過程で変化する DNA 構造にどのように応答し、修復に必要な反応を制御するかはこれまで⼗分に理解されていませんでした。

     九州⼤学 ⼤学院理学研究院の⾼橋 達郎 教授、同⼤学 ⼤学院システム⽣命科学府の達川 絢介 ⼤学院⽣、⻑浜バイオ⼤学の⼤橋 英治 准教授、⼤阪⼤学の久保⽥ ⼸⼦ 准教授らの研究グループは、「ツメガエル卵核質抽出液」を⽤いて、DNA ⼆重鎖切断損傷後の反応を制御するメカニズムを明らかにしました。DNA ⼆重鎖切断損傷の修復過程では、⼆重らせんの⽚側の鎖を分解して「⼀本鎖 DNA」を露出させる反応が起こります。本研究グループは、⼀本鎖 DNA を露出させる反応を試験管の中で再現し、これを⽤いて、MRN および 9–1–1 と呼ばれる⼆種類のセンサータンパク質が、削られている途中の DNA ⼆重鎖切断損傷を、独⽴かつ冗⻑的に検知することを⾒つけました。⾯⽩いことに、この⼆種類のセンサーは、⼀本鎖 DNA を露出させる反応も促進していました。さらに本研究グループは DNA を回収してそこに結合するタンパク質を解析し、MRN と 9–1–1 の下流で働く因⼦群も明らかにしました。MRN および 9–1–1 が DNA ⼆重鎖切断損傷に応答するしくみはこれまで複数報告されてきましたが、本研究は、⼀本鎖 DNA が露出される過程では、これらのセンサーがお互いに独⽴に、かつ重複して、損傷の検知と修復の進⾏にはたらくことを、世界で初めて明らかにしたものです。

     近年、植物の品種改良や遺伝⼦治療を⽬的としてゲノム編集技術が注⽬されています。ゲノム編集では、多くの場合 DNA ⼆重鎖切断損傷が利⽤されるため、本研究で得られた知⾒は安全で効率的なゲノム編集法の確⽴に貢献するかもしれません。また、がん細胞は⼀般的に DNA ⼆重鎖切断損傷などの DNA 損傷に対する細胞内の反応に異常があることが多く、これを利⽤して放射線治療などが⾏われています。今回⾒つけた反応や個々の因⼦を分⼦標的とする薬剤は、抗がん剤や併⽤剤の候補になりうると考えられます。

     本研究成果は、英国の雑誌「Nucleic Acids Research」に現地時間 2024 年 2 ⽉ 13 ⽇に掲載されました (https://doi.org/10.1093/nar/gkae082)。

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