HOME > 広報 > トピックス > 2017年12月28日(木)

岡崎助教らが“八王子隕石”とされる隕石を初めて詳細に分析しました。

  • 2017年12月28日(木)

研究の背景

 今からちょうど200年前の1817年12月29日(旧暦では文化14年11月22日)、現在の八王子市中心部に多数の隕石が落下しました。この「八王子隕石」については当時の日記などの史料に多くの記録が残されており、約 10km の範囲に、長さ 1m 程度のものを含む多くの破片が落下した隕石雨(隕石シャワーとも言う)だったことが分かっています。落ちた隕石の一部は江戸幕府勘定奉行所に届けられ、天文方によって調べられましたが、現在までにそれらはすべて散逸し、失われてしまいました。

 1950年代になり、京都の土御門家の古典籍の中から、約 0.1g の隕石小片が発見されました。「隕石之事」と書かれた紙包みの中に、八王子隕石について書かれた紙に挟まれて入っていたことから、八王子隕石の一つであると考えられました。しかし、同じ包みの中に曽根隕石(1866年6月7日、現在の京都府京丹波町に落下した約 17kg の隕石。京都府が所蔵し、国立科学博物館に寄託・展示中)について書かれた紙も入っており、曽根隕石の一部である可能性も否定できませんでした。

 この小片が八王子隕石かどうかを確かめるにはどうすればよいでしょうか? もし、ほかに八王子隕石があれば、この小片と比較することで確認ができますが、残念なことに八王子隕石と断定できる隕石は今のところありません。そこで、小片と曽根隕石とを詳細に分析し両者に違いが見つかれば、八王子隕石である可能性が高くなります。しかし、これまでの技術では、微量な隕石小片を分析することが困難でした。

研究の内容

 研究グループは今回、「はやぶさ」が持ち帰った粒子の分析にも用いられた、最新の技術で分析を行いました。隕石の小片(116.1mg)から、20.0mg を割りとり、研磨薄片を作成し、光学顕微鏡による組織観察および電子線マイクロアナライザによる鉱物組成(かんらん石、輝石、自然ニッケル鉄、酸化鉱物)の分析を行いました。また、別の 0.7mg を用いて X 線回折装置による分析を、5.4mg を用いて希ガスの分析を行いました。比較のため、曽根隕石に対しても同様の分析を行いました。

 組織観察と鉱物組成の検討の結果、分析した隕石小片は「普通コンドライト」と呼ばれる種類で、化学的グループは H で岩石学的タイプは 5(以下「H5」と略す)であることがわかりました。これは曽根隕石と同じでした。さらに、かんらん石と輝石の鉱物組成は、曽根隕石のそれと誤差の範囲内で同一でした。X 線分析、希ガス組成、宇宙線照射年代においても、分析した小片と曽根隕石の違いはほとんど見つかりませんでした。

 これらの結果から、分析した隕石小片は八王子隕石ではなく、曽根隕石である可能性があります。一方で、H5 普通コンドライトは全隕石の約 18%(57,168個のうちの 10,109個)を占めている最も多い種類の隕石であり、八王子隕石と曽根隕石がたまたま同じタイプの隕石であった可能性も十分にあります。

今後の展望

 今回の分析で得られた結果は、学術専門誌に投稿する予定です。また、八王子隕石は数多く降り注いだとされており、隕石の一部が今も八王子市内の旧家などに残っているかもしれません。研究チームは今後、広く一般に呼び掛けることで、八王子隕石の発見と分析を進めます。

研究サポート

 本研究は、国立極地研究所プロジェクト研究費(KP307)、総合研究大学院大学の学融合共同研究「オーロラと人間社会の過去 · 現在 · 未来」、同大学のセンター長裁量支援研究「天変地異と人間社会の変遷: 言葉の在り方と世界の在り方」、同大学の萌芽的共同研究「太陽系見聞録の作成と発信—太陽系の起源と進化の統合的理解に向けて—」、国立科学博物館基盤研究、および、国文学研究資料館の「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画(歴史的典籍 NW 事業)」の支援を受けて実施されました。

※本件についての詳細およびお問い合わせ先は以下をご覧ください。

関連先リンク