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新井 美存さんと石原 教授らの研究グループが、記憶を思い出させるシグナル経路を発⾒しました。

  • 2022年9月29日(木)

ポイント

  • 記憶の保持時間を適切に制御することは、刻々と変化する環境に適応するために重要ですが、これまでにその仕組みはほとんどわかっていません。
  • 記憶を思い出させるシグナル経路を⾒つけ、⼀つの神経細胞が忘れさせることと思い出させることの両⽅を制御していることを発⾒しました。
  • ⼈にとっても重要な記憶の保持時間の制御メカニズムの理解につながることが期待されます。

概要

 私たちは、外部や体内の環境から取り⼊れた情報の⼀部を記憶として脳に保持し、それに基づいてどう⾏動するかを決めています。しかし、環境は変化し続けるため、数⽇後、数か⽉後にその記憶が必要かどうかはわかりません。例えば、⾃分の名前などの記憶はずっと覚えている必要がありますが、「今週は○○スーパーの⽜乳が 160 円」や「明⽇は 10 時に集合」などの記憶は、特定の⽇時が過ぎれば不要になります。不要になった記憶が蓄積すると、他の必要な記憶を思い出すのに邪魔になるなどのため、使わない記憶は積極的に忘れた⽅が合理的です。しかし、どの記憶をどれだけの時間保持するかを制御する仕組みはまだほとんどわかっていません。今回、九州⼤学⼤学院理学研究院の新井 美存 学術研究員と⽯原 健 教授らは、記憶を“忘れさせる”仕組みとは別に、記憶を“思い出させる”仕組みがあることを新たに発⾒しました。

 線⾍は、餌がない条件で匂いをかがせると、その匂いに対する学習が起きて、その匂いに反応しなくなるように⾏動が変化します。この⾏動変化は数時間で元に戻るので、この変化と回復を忘却のモデルとして研究しています。私たちの研究室では、“忘れさせる”ことを促進する遺伝⼦を⾒つけ、それを持たない線⾍は忘れにくくなり、学習によって変化した⾏動を⻑くとり続けることがわかっていました。

 新井研究員は、“忘れさせる”ことを促進する遺伝⼦を持たなくても⾏動が正常に回復する線⾍を探索し、新たな遺伝⼦が関与することを発⾒しました。神経活動の測定によって、この線⾍は、記憶⾃体は⻑く保持されていることがわかりました。つまり、記憶はあるのに思い出せていないことから、この遺伝⼦は記憶を“思い出す”ために必要であること、この遺伝⼦が壊れると記憶は残っているのに思い出せなくなる(だから忘れたように⾒える)ことが推定できました。

 本研究は、線⾍を使うことによって、記憶を思い出せないことと忘れたことを分離し、“思い出させる”仕組みに関わる遺伝⼦を初めて明らかにしました。ヒトでも、必要な記憶を忘れやすくなる認知症や恐怖記憶を忘れなくなる PTSD などでは、記憶の保持時間を適切に制御できていないと考えられます。本研究の成果は、このような疾患の理解と治療に繋がる可能性もあります。本研究成果は、⽶国の雑誌「The Journal of Neuroscience」に 2022 年 9 ⽉ 14 ⽇に Early Release として掲載されました。(https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.0090-22.2022)

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