HOME > 広報 > 九大理学部ニュース > 分野別:物理学

九大理学部ニュース(分野別:物理学)

物理光で回る液晶液滴

齊藤 圭太

レーザー光を集光することで、焦点付近に微小な物体を捕捉する技術を「光ピンセット」といい、この技術を利用することで、細胞などの小さくて柔らかいものを精密に制御することが可能となります。光学異方性を持つ物体であれば、光電場の振動方向が回り続ける円偏光を照射することで、物体を回転させることもできます。この回転は、非接触で制御できることから、マイクロ流動場デバイスとして有用であります。デバイスとして応用するためには、そのエネルギー効率が重要となります。そこで本研究では、内部構造の制御が容易な液晶液滴 (光学異方性粒子) を用いて、その内部構造と回転メカニズムの関係を調べ、エネルギー変換効率の評価を行いました。さらに、エネルギー効率の高い液滴を用いて、制御可能なミクロ流動場の構築に成功しました。

続きを読む

物理重力は量子の世界に仲間入りできるか?

上田 和茂・杉山 祐紀

自然現象を記述する様々な理論を統一し、たった一つの数式で宇宙を表現することは理論物理学の大きな夢です。この世界の全てを描く数式を知ることができれば、きっと宇宙の真理が分かるでしょう。しかし、その数式を見つけ出すには、いくつかの関門を乗り越えなければなりません。その一つが、原子や電子などのミクロな世界を支配する量子力学と、時空と重力を司る一般相対性理論の矛盾のない統合です。この困難に挑戦するため、宇宙物理理論研究室 (山本 一博 教授、菅野 優美 准教授、松村 央 助教、倉持 結 助教) では、重力と量子をキーワードとした外堀を埋める研究が進められています。今回は、宇宙物理理論研究室に所属する物理学専攻の上田 和茂さんと杉山 祐紀さんに、重力と量子のつながりを示すヒントになるかもしれない、いくつかのトピックについてお話しいただきました。

続きを読む

物理水の物理化学から環境科学の問題に挑む

植松 祐輝

水は、私たちの身の回りのいたるところにありふれています。そのため、生命活動や自然界の物質循環は、様々な物質を溶かしたり状態変化したりする水の物理化学的な性質を有効に活用しています。私たちも、自然界にならって水の様々な性質を利用し、生活を豊かにしてきました。そんな生活に根付き、毎日利用している水ですが、その物理化学的性質は未だ完全に理解されたとは言い切れません。例えば、疎水性界面と呼ばれる、水と空気などが接した境界面では、ジョーンズ・レイ効果と呼ばれる表面張力に関する現象が知られており、そのメカニズムについては未解決のままとなっていました。そこで、物理学部門 複雑物性基礎研究室の植松 助教らは、水に溶け込んだ微量な不純物が疎水性界面に吸着することを考慮することにより、ジョーンズ・レイ効果のみならず、その他の疎水性界面の特性も統一的に説明できることを示しました。この研究成果が認められ、植松助教は福井謙一奨励賞を受賞しました。水の物理化学研究の今後の展開について、社会との繋がりも交えて、植松助教にお話ししていただきます。

続きを読む

物理人工細胞でさぐる細胞の「対称性」の不思議

坂本 遼太

私たちを形作る細胞は、変形・運動・分裂といった動的な変化を見せます。この動きは、細胞の主要な構成要素の 1 つであるタンパク質のうち、細胞骨格タンパク質とよばれる生体分子と、モータータンパク質とよばれる別の生体分子の連携によって生み出されることが知られています。この細胞骨格タンパク質であるアクチン分子、そしてモータータンパク質であるミオシンは、細胞の大きさに比べると非常に小さなものですが、分子同士が相互作用して集合体になることで、細胞内に流れや力を生み出し、細胞内の構造物の配置を制御していると考えられています。従来の生命科学では、主として新たなタンパク質の発見や、生化学反応の詳細な理解が進められてきました。近年では、力など物理的な要素が関わることが注目され、物理学と生命科学の双方からの理解が求められています。しかし、生きた細胞は非常に複雑であるために、このような構造形成の仕組みを物理的な観点から理解するには、十分な実験手法が発達していませんでした。そこで、物理学専攻 複雑流体研究室の坂本さんらは、実際の細胞を単純化した人工細胞を作成することで、このメカニズムについて研究を行いました。人工細胞は、サイズ・形状・タンパク質濃度などを容易に変えることができるため、生命現象を物理的な観点から調べる上で好都合です。この研究では、人工細胞内部の球形の構造物が、人工細胞の大きさに応じて配置場所を変化させる現象を見出し、アクチンとミオシンによる力の綱引きが重要な役割を果たしていることを明らかにしました。

続きを読む

物理超対称性粒子の質量の持つ新しい性質

奥村 健一

物質を形作る最も基本的な粒子である素粒子は「標準模型」と呼ばれる理論でよく理解できることが知られています。しかし宇宙の暗黒物質など説明できない現象があるため、研究者はさらに基本的な理論があると考えています。その中でも有力とされるのが超対称性理論です。超対称性理論は標準模型のすべての素粒子に対となる新しい素粒子を予言します。そうした新しい素粒子の質量は「超対称性の破れ」によって決まっています。本研究では量子重力理論の候補である「超弦理論」の予言する「モジュライ媒介」と呼ばれる超対称性の破れを詳しく調べました。そしてこれまで存在すると考えられていた重い素粒子からの補正がある一般的な条件の元で奇跡的に消えてしまうことを明らかにしました。

続きを読む

物理岩下助教らによる研究が Advances in Engineering 社の注目論文として紹介されました。

岩下 靖孝

コロイド粒子はナノテクノロジーの最先端から自然現象に至るまで随所に現れます。近年では「異方的」コロイド粒子系が盛んに研究されており、「等方的」な系には見られないような新規で多彩な凝縮構造が発見されつつありますが、「異方性」から秩序が生まれるメカニズムは未だ解明されていません。複雑物性基礎研究室の岩下助教らはパッチ粒子と呼ばれるシンプルな異方的コロイド粒子に着目し、パッチ粒子の凝縮構造や自己組織化を実験的に調べることで、「異方性」と「凝縮構造」との対応関係を調べています。今回の研究では密充填から分散状態までの 1 パッチ粒子系を観測し、数値シミュレーションで解析することで、方向秩序を生み出すメカニズムが密度によって変化することを明らかにしました。

続きを読む

物理物質と生命の普遍法則を求めて

別府 航早

自発的に動く粒子(アクティブマター)が集団運動を出現させる仕組みとその共通性を理解する研究が近年注目を集めています。アクティブマターの代表であるバクテリア集団を円形容器に閉じ込めると渦運動が出現しますが、この根底にあるメカニズムは明らかになっていません。複雑流体研究室の別府さんらは、自由にデザインされた境界を用いた実験を行い数理モデルと結びつけることで渦の集団的パターンを操る仕組みを明らかにし、たったひとつの数式で示すことに成功しました。

続きを読む

物理小さな磁石の大きな可能性

山野井 一人, 横谷 有紀

磁石に特定の周波数のマイクロ波をあてると、電子スピンの動力学的運動が継続的に誘起されて磁石の内部エネルギーが増大する、強磁性共鳴と呼ばれる現象が起こります。強磁性共鳴時の微小磁石の温度変化を測定する技術を開発し、強磁性共鳴によって増大した内部エネルギーが最終的に磁石自身の発熱を引き起こすことを明らかにしました。

続きを読む

物理新時代の3次元光メモリー

佐藤 琢哉

フェムト秒光パルスを反強磁性体という特殊な磁石に当てることによって光の任意の偏光状態を磁石に写し込み、情報記録媒体として書き込む事に成功しました。また別の光パルスを磁石に当てることによってその情報を読み取ることにも成功しました。

続きを読む

物理中性子ビーム加速の新技術

吉岡 瑞樹

これまで制御が難しかった中性子ビームの加速減速を自在にコントロールし、空間的・時間的に集束させることに成功しました。空間的に高密度に局在した中性子は、様々な素粒子物理実験への利用が期待されています。

続きを読む

物理DNA 小さな穴のくぐり方

坂上 貴洋

やわらかいひもやロープのはしを引っぱると、手前の部分だけがまず動き、その影響が後ろの部分に伝達していく。物理学部門の坂上助教は、DNA分子を含む生体高分子が膜にあいた微小な穴を通過するときも同様に、穴に引き込まれる力が徐々に伝わって、分子の空間構造が次々と変化しながら通過することを初めて理論的に示した。

続きを読む

物理見えない光で銀河を見つける

高妻 真次郎

宇宙の遥か彼方で明るく輝く活動銀河中心核を見つけ研究することは、宇宙の進化の初期段階を知る手がかりとなる。物理学科の高妻研究員らは、近赤外線波長での天体の明るさ(等級)から求めた色を利用し、簡易的に活動銀河中心核を見つける方法を確立した。

続きを読む

物理ニュートリノ 質量計算が単純化

渡邊 篤史

現在発見されている素粒子の中で、唯一質量の分かっていないニュートリノに関して、余剰次元空間中の重力の影響を考慮したニュートリノ質量の理論値の計算がシンプルに行えるようになった。

続きを読む