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謎のオーロラに理論と観測で迫る(

シータオーロラにともなう沿磁力線電流の予測と検証

著者

まれに、上空から観測するとシータ(Θ)の形に見えるオーロラが発生します。渡辺准教授らの研究グループは、惑星間空間磁場が急激に反転するときにできるタイプのシータオーロラに注目し、計算機シミュレーションの結果から、シータオーロラを貫く磁力線にはある決まったパターンで電流が流れているはずだという予測をしました。この理論予測のもと過去のシータオーロラ発生時の観測データを解析し、シミュレーション通りの電流の存在を確認しました。一連の研究成果はJournal of Geophysical Research: Space Physicsに掲載されました。

渡辺 正和(理学研究院 地球惑星科学部門)

シータオーロラ

オーロラは磁気圏に侵入した太陽風の荷電粒子が磁力線に沿って加速され、下層の電離圏に入り大気と衝突し発光する現象で、地球・木星・土星など、固有の磁場と大気をもつ惑星に現れます。オーロラの大規模構造を極域上空から観測すると磁極を中心とするリング状に見え(図1a)、このリングをオーロラオーバルと呼びます。巨視的には、磁気圏と電離圏を結ぶ電気回路ができていて、磁気圏側に電池が、電離圏側に電気抵抗がある構造になっています(図2)。磁気圏と電離圏を結ぶ電流は磁力線に沿って流れ 、沿磁力線電流と呼ばれます。オーロラオーバルを貫く磁力線には沿磁力線電流が、ある決まったパターンで定常的に流れていることが知られています。

図1
図1 北極域上空の高高度人工衛星から観測された(a)通常のオーロラと(b)シータオーロラ(Frank et al., 1982)。左上側の明るい部分は、太陽光に照らされている昼の領域(c)。
<dfn class="fig">図2</dfn>:<span class="qrinews-figure-title">磁気圏・電離圏に現れる巨大な電気回路</span>虫眼鏡をもったきゅうりくん@右下
図2磁気圏・電離圏に現れる巨大な電気回路

ごくまれにオーロラオーバル内側(極冠)を横断するオーロラが見られることがあります(図1b)。ギリシア文字のシータ(Θ)の形になることから、この形態または横断部分を「シータオーロラ」と呼びます。シータオーロラは、太陽風に乗って運ばれてくる変動磁場(惑星間空間磁場)の南北方向成分が強い北向きの時に現れますが、詳細はまだよくわかっていません。複数通りのでき方があるようで、そのうち比較的よく知られているのは、惑星間空間磁場の朝夕方向成分の急激な反転が誘発するものです。惑星間空間磁場が夕方向きから朝方向きに切り替わる場合、北半球では夕方側のオーロラオーバルが分岐して朝方側に進むシータオーロラになり(図3a)、南半球では逆に朝方側で分岐が起こります(図3b)。

<dfn class="fig">図3</dfn>:<span class="qrinews-figure-title">惑星間空間磁場朝夕成分の変動で形成されるシータオーロラのパターンと計算機シミュレーションで現れた沿磁力線電流</span>虫眼鏡をもったきゅうりくん@右下
図3惑星間空間磁場朝夕成分の変動で形成されるシータオーロラのパターンと計算機シミュレーションで現れた沿磁力線電流

理論的予測と検証

研究グループは上記のように形成されるシータオーロラにも沿磁力線電流が流れているはずと考え、まず電磁流体数値シミュレーションを行い計算機の中でシータオーロラを作りました。その結果、シータオーロラが朝方側に移動している場合には移動するオーロラの後方に電離圏に入る電流が現れ(図3a)、シータオーロラが夕方側に移動している場合には移動するオーロラの後方に電離圏から出る電流が現れました(図3b)。このような電流系の存在はこれまで報告されたことがなかったため、次に既存の観測データを解析することで図3の電流系の存在を検証しました。

<dfn class="fig">図4</dfn>:<span class="qrinews-figure-title">シータオーロラにともなう沿磁力線電流の観測例</span>虫眼鏡をもったきゅうりくん@右下
図4シータオーロラにともなう沿磁力線電流の観測例

1998~2004年の7年間で、シミュレーションと同様の理想的な惑星間空間磁場変動はわずか4事例しかありませんでしたが、その全てにおいて予測通りの沿磁力線電流系の存在が確認されました。図4はその一例で、北極域でシータオーロラが現れたときに上空を通過した低高度人工衛星(図4a)による観測記録です。このとき、電子とイオンの大量降下が3領域で観測されていました(図4c、d)。両側(夕方側および朝方側)の降込みがオーロラオーバル、中央の降込み(図4cの黄色部分)がシータオーロラです。この場合シータオーロラは朝方に動いていると考えられます。図4bは水平磁場の人工衛星軌道に直交する成分を示します。黄色で示された部分に、右上がりの急な傾きが認められますが、これが電離圏に入る沿磁力線電流を表しています。

今後の展望

惑星間空間磁場北向き時の磁気圏は複雑で、謎めいた現象がたくさんあります。今回の研究のように数値シミュレーションと観測データ解析を有機的に組み合わせることで、これらの現象が少しずつ解明されていくことが期待されます。

研究こぼれ話

【渡辺准教授のお話】
研究の流れを振り返ってみると、qri_point観測とシミュレーションは切り離せないことがわかります。図4の観測データから帰納的に図3を導くことはほぼ不可能です。虚心坦懐に観測データを眺めることは大切ですが、このようにある種の「思い込み」をもつことも必要です。

より詳しく知りたい方は・・・

タイトル
Global MHD modeling of ionospheric convection and field-aligned currents associated with IMF By triggered theta auroras
著者
Masakazu Watanabe, Shintaro Sakito, Takashi Tanaka, Hiroyuki Shinagawa, Ken T. Murata
掲載誌
Journal of Geophysical Research: Space Physics 119:6145–6166 (2014)
タイトル
Observation of a unipolar field-aligned current system associated with IMF By-triggered theta auroras
著者
Masakazu Watanabe, Marc R. Hairston
掲載誌
Journal of Geophysical Research: Space Physics 121:4483–4497 (2016)
研究室HP
太陽地球系物理学研究分野
キーワード
シータオーロラ、沿磁力線電流、惑星間空間磁場、電磁流体数値シミュレーション、人工衛星観測データ